「鎌倉」の世界文化遺産への再推薦・登録に向け、神奈川県・横浜市・鎌倉市・逗子市世界遺産登録推進委員会では、平成27年度の普及啓発事業の一環として、「歴史的遺産と共生する、これからのまちづくり」をテーマにした講演会を平成28年2月11日に開催しました。
当日は、「鎌倉」がこれから取り組むべきことについて、文化財保存修理会社社長で観光や文化財の活用について多くの著作があるデービッド・アトキンソン氏に、たいへん興味深い講演をしていただきました。
また、社寺関係者等とのパネルディスカッションを通じて、これからのまちづくりに必要な課題を抽出することができました。さらに、県立鎌倉高等学校の生徒さんたちによる、「かまくら学」の研究発表も行われ、活気に満ちた講演会となりました。
【会場】鎌倉生涯学習センター ホール
【参加者人数】170名(申込受付人数193名)
第1部 「かまくら学」の成果発表
講演会は3部構成で行われました。
第1部は、神奈川県立鎌倉高等学校生徒3名が、「かまくら学」の成果発表を行いました。「かまくら学」とは、武家の古都鎌倉に位置する県立鎌倉高等学校により「県立高校における『かながわ学』のシステムづくり」というテーマで始まった研究です。具体的な活動としては、鎌倉の歴史・文化や産業・交通など、さまざまな角度からの鎌倉研究を行うほか、遺跡の保存活動等に係るボランティア活動や鎌倉祭りへの参加など、地域との協働による活動を行っています。
3名の生徒はそれぞれ、次のテーマについてスライドを用いて発表しました。
宮城さん「鎌倉と環境・資源・エネルギー」
飯田さん「『吾妻鏡』について」
(神奈川県立鎌倉高等学校)
>>村山さんの発表資料「古民家の魅力に迫る」(PDF:256KB)
>>宮城さんの発表資料「鎌倉と環境・資源・エネルギー」(PDF:540KB)
>>飯田さんの発表資料「『吾妻鏡』について」(PDF:232KB)
第2部 アトキンソン氏による講演
株式会社小西美術工藝社社長で、観光や文化財の活用について多くの著作があるデービッド・アトキンソン氏に講演いただきました。
アトキンソン氏の講演の主旨
- 日本は人口が急激に減っているため、今までのやり方では収入を維持できない。そこで観光収入を伸ばすことが解決策になる。観光の視点からも歴史的遺産や文化財を活かすことが重要になってくる。
- 観光資源(文化財など)を発信するだけでなく、磨く必要がある。見る人の立場に立って丁寧に説明しないとその素晴らしさは伝わらない。
- 鎌倉のまち並みは工夫する必要がある。来てもらう人へのサービスとして建物の表だけでも工夫した方がよい。鎌倉のまち並みを歩いて中世を感じる人はいない。古都として復元できるものはした方がいいのではないか。
- 鎌倉は中世の歴史の宝庫といっているが、それを説明する場所があってしかるべき。音声やパネル、動画など。
- 歴史の舞台としての神社仏閣で、その価値の説明がきちんとされているかというとまだまだである。建物の説明であれば、技術的なこと、何でできているなどの説明に終始していることが多い。その本質や意味合いなど、人間を中心とした説明をすべき。
- 解説の意味合いは満足だけでない。滞在時間も長くなるので、観光収入が増える。
- 観光の一番のポイントは多様性である。鎌倉はもともとの資源はたくさんある。文化財だけではなく、自然や海、街並み、博物館などを整備して楽しみを増やしていけばよい。
- 説明板などについて、英語表記さえあればよいというものではない。中身がなければだめ。鎌倉の歴史の良さを理解してもらうためのセリフ作りが重要である。
- よくごみ箱を設置せず「ごみを持って帰りましょう」というが、人を家に呼んでもてなして、帰りにごみを渡すことをするだろうか。鎌倉で消費したものを、東京や、まして外国まで持って帰れというのはご都合主義でおかしい。
第3部 パネルディスカッション
第3部では、アトキンソン氏の講演を受けて、社寺関係者の方々や「かまくら学」の成果発表を行った生徒3名によるパネルディスカッションを行いました。パネリストの方々は以下の通りです。
佐藤孝雄氏(鎌倉大仏殿高徳院住職)
朝比奈惠温氏(浄智寺住職)
仲田順昌氏(覚園寺副住職)
加藤健司氏(鶴岡八幡宮教学研究所所長)
村山さん(神奈川県立鎌倉高等学校)
宮城さん(神奈川県立鎌倉高等学校)
飯田さん(神奈川県立鎌倉高等学校)
コーディネーター 桝渕規彰(鎌倉市歴史まちづくり推進担当担当部長)
アトキンソン氏の講演を受けての感想・意見
村山さん
おもてなしを動機に観光する人はいないということに納得した。鎌倉の歴史をまずは自分がしっかり勉強して、来る人に伝えられるようにしなければならない。
宮城さん
説明板は、まず日本人が見てよいと思えるパネルにしないといけない。鎌倉駅を出てすぐ古都を感じられない、鎌倉に来たと感じさせるまち並みが必要という意見に共感する。
飯田さん
日本遺産で今あるものを磨いて世界遺産を目指すとよい。
佐藤氏
誤解を恐れずに発言させて頂くなら、自分たちが暮らすまちの価値は自分たちではわからない。その評価には他者の目が必要ということに改めて気付かされた。ただ、本講演会の主題であるまちづくりを観光資源化という観点のみから論じることには疑問も感じざるを得ない。
朝比奈氏
わかっていること、やればできるが先送りにしていることについての指摘が多かった。ただ、宗教者として譲れないところもある。
加藤氏
八幡宮ではすでに国際課を設置し、英語での教化の広報の取組を始めている。
仲田氏
多くを語らない鎌倉にあって、覚園寺は多くを語る寺。ガイド協会にも協力いただき、寺の境内を案内する参拝方式を30年続けている。世界遺産になってもならなくても寺として守るものは変わらないと考えていたが、ダメと言われると悔しい、良いと言ってほしいという気持ちもある。
「日本の拝観料は諸外国に比べて安い」
というデータ(アトキンソン氏)についての意見
アトキンソン氏
日本は今まで安売りで人を多く集めることに重点を置いてきた。高くして、人数が減ったとしても高くした分すべて減ることはない。増収になる。その分、文化財の保護やサービスの充実にお金を回せる。説明については、来る人がどう思うかということが重要。多様性があってしかるべきなので、社寺によって説明の多い少ない、拝観料の高い、安いも選択肢があってよいとは思う。
加藤氏
寺院は檀家さんと一定の関係を保ってきた場所かもしれないが、神社は鎮守とか
というように地域とかかわりを持つ場所であり、拝観料はとらないのが通例。特別な例としては日光東照宮がある。
朝比奈氏
国際水準に合わせて高くすればよいというものではないと思う。来る人に対して親切にしていくことで、価値を理解して喜んで来ていただけるようにしたい。満足感をどう持っていただくかである。
佐藤氏
高徳院は鎌倉で最初に有料拝観を始めた寺院。もっとも、有料拝観の開始以来、入場料は一貫してJR(旧国鉄)の入場料と同程度に抑えている。大仏像は文化財であると同時に、信仰の対象でもある。それだけに単に観光資源化の成否という観点から拝観料を云々することは慎むべきであろう。
アトキンソン氏
信仰の議論は海外でもある。ウエストミンスター寺院では昔は拝観料をとらなかったが、文化財として維持できなくなってきて任意で取ることになった。しかし払う人がおらず、結局強制になった。ただ、信仰する人だけが無料で入れる時間を設け、その時間は観光客は一切入れないようにしている。
松尾市長による閉会の挨拶
講演会の最後に、鎌倉市市長の松尾崇が「鎌倉の文化財をしっかり守り、より良いまちづくりにつなげていくというために、この講演会がとても良い機会になったと思っております。」と挨拶を述べて閉会しました。