調査日:平成27年2月2日~2月4日
調査地:少林寺、会善寺、嵩岳寺塔、嵩陽書院、太室闕、啓母闕、少室闕、周公測景台、観星台(河南省登封市)
(1)資産概要
「天地の中央」にある登封の史跡群(以下「登封」という。)は中華人民共和国河南省登封市に所在する世界文化遺産で、2001年に暫定資産一覧表に記載され、2008年に推薦書が提出、2010年の第34回世界遺産委員会(ブラジル)において、世界遺産一覧表に記載されている。
構成資産は8構成資産(11構成要素)からなるシリアルノミネーション(明確に定義されたつながりによって関係づけられた複数の構成資産を持ち、連続体全体として顕著な普遍的価値を有するもの)であり、道教、仏教、儒教、科学技術に関する資産などからなる。多くの種類の資産から構成されていること、山(嵩山)に囲まれていること、禅宗に関連する資産(少林寺)を含む点などが「鎌倉」との共通点として挙げられることから、現地調査を行ったものである。
評価基準(※)はⅲ)とⅵ)により登録されている。
※世界文化遺産一覧表への評価基準
ⅰ)人間の創造的才能を表す傑作である。
ⅱ)建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
ⅲ)現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
ⅳ)歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、或いは景観を代表する顕著な見本である。
ⅴ)あるひとつの文化(又は複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である。(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)
ⅵ)顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
【主な構成資産】
(少林寺 山門)
(少林寺 大雄宝殿)
(少林寺 塔林)
(嵩岳寺 塔 その1)
(嵩岳寺 塔 その2)
(嵩陽書院 道統祠 その1)
(嵩陽書院 道統祠 その2)
(観星台 その1)
(観星台 その2)
(観星台 その3)
(中岳廟 遥参亭)
(中岳廟 天中閣 その1)
(中岳廟 天中閣 その2)
(2)調査結果
ア 禅宗の伝播について
a 少林寺初祖庵
・北宋代の木造建築である、大殿と円覚寺舎利殿を実地調査により比較し、尾垂木のある組物が詰組になっている点で共通しているが、柱の形状が八角であること、裳階がないこと、大瓶束を用いてないことなどの相違点を確認した。
(大殿 組物(隅部分))
b 少林寺塔林
・塔林内に無縫塔を確認し、建長寺の無縫塔との比較を行い、基本的な構成は共通しているが、少林寺の無縫塔は花弁(請花)の彫りが浅い、塔身の曲線が緩やか、柱の太さが太いなどの相違点を確認した。
(塔林 無縫塔 正面)
c 少林寺常住庵
・中軸線上に伽藍が配置されている点で共通点を有するが、各伽藍ごとにひな壇造成を行い、空間が区切られている点が異なる点で異なることを確認した。
イ 各資産とコンセプトの関係について
・中岳廟、嵩陽書院、少林寺等において、唐代等の石碑にも「天地の中央」に関連する記載等(例:会善寺照壁の「天中山」の石刻)があることを確認し、「天地の中央」の概念が歴史的に長い時間をかけて育まれたものであることを確認した。
(会善寺照壁 「天中山」の石刻)
ウ 嵩山と構成資産の関係について
・各構成資産は、基本的に嵩山に対して一直線上に資産が配置されており、さらに左右対称に配置されていることを確認し、仏教に関連する資産以外も中軸線及び左右対称の配置が意識されていることを確認した。
エ 資産の管理保全状況等について
・資産は全般的に良好に保存されており、塔林では、近年柵を設置するなど、厳格化が進められている。資産の説明板(中英日韓の4ヶ国語)、入口の機械などについては、全ての構成資産で仕様が統一されているとことが確認された。
(少林寺 塔林)
オ 意見交換結果
・登封市文物局担当者等と意見交換を実施し、コンセプト変更の経緯、資産管理の取組み等などを確認した。
まとめ:
「鎌倉」の資産と実地において調査・比較を行うことにより、「鎌倉」の新たなコンセプトの策定に向けて、下記の点に関する基礎的な資料・知見の収集を行うことが出来た。
・「鎌倉」の資産が、禅宗の中国から日本への伝播、東アジア文化圏内での価値観の交流を示すものであることを検証するための資料の収集
・「武家の古都・鎌倉」においては寺院、神社、武家館跡など、多様な資産を含んでいたが、同様に、道教、儒教、仏教等多様な資産が含まれる世界遺産において、物証として、コンセプトと資産の対応関係が示されていること
また、資産の実際の保全管理状況、観光圧力への対応、来訪者への資産の価値の伝達方法等について確認し、「鎌倉」の今後の保全管理等の検討への基礎的な資料・知見の収集を行うことが出来た。